吉本ばなな『キッチン』
最近、なかなか本を読むことができず、というか読む気になれず、という日々を送っていた。でも実際は読みたい気持ちが強くてうずうずしていた。本を手に取っては内容を知りたくて知りたくてたまらない。「あーーもう!」活字嫌いは本当に邪魔だ。
そんな中で家の本棚を「読める本ででこーい」と眺めていたら、スッとある本の背表紙が目に飛び込んできた。それが吉本ばなな『キッチン』、彼女のデビュー作。有名な作品なのでいつか読もうと買って眠っていた本だ。
この作品は人の死によって主人公が成長していくのだが、重い、暗いということはなくて「前を向いて生きよう」という気持ちにさせてくれる小説だった。
どうして私はこんなにも台所関係を愛しているのだろう、不思議だ。魂の記憶に刻まれた遠いあこがれのように愛しい。ここに立つとすべてが振り出しに戻り、なにかが戻ってくる。
主人公に取っては台所が特別な場所。大切な人が死んでいくそんな状況で台所が一つ大切な拠り所になっていたのではないかと思う。
皆さんには大切な場所があるだろうか。心が不思議と落ち着いたり軽くなったり、はたまた懐かしい思いを抱いたり。自分にとっての特別な場所、特等席。
僕は引っ越してしまったので新しいが、帰り道がそんな場所だ。正確に言えば少し遠回りをした道。横に川が流れていて水の流れの音が耳に入り、木の揺れる音、小鳥の鳴く声が聞こえる、そんな道を歩いているとノスタルジックな気分になり、頑張らなくちゃという気持ちが湧いてくる。
「大切な場所」って物凄く大事だと思っていて、どんなに辛いことがあったり、泣きたいことがあったとしても、そこに自分だけの場所が存在していて、そこだけが自分の見方となり寄り添っていてくれると感じられるだけで、心はすごい助かる。この本を読んでそう再認識した。
人はみんな、道はたくさんあって、自分で選ぶことができると思っている。選ぶ瞬間を夢見ている、と言った方が近いのかもしれない。私も、そうだった。しかし今、知った。はっきりと言葉にして知ったのだ。決して運命論的な意味ではなくて、道はいつも決まっている。毎日の呼吸が、まなざしが、くりかえす日々が自然と決めてしまうのだ。
凄く胸にくる文章だった。自分たちは自由に思うように、あれをしたいこれをしたいと夢を見ながら、それを選択して生きている。僕はそう思っていた。でも違うと。毎日の呼吸が道を決めている。
自分の呼吸やまなざしは、どんな道へと導いているのか。もう一度思い返してみたい。
例えば、今の道に不満があるなら振り返ってみてほしい。普段、何気なくいう愚痴や悪口、嫉妬。そんなマイナスなことが今の自分の道を決めているのかもしれない。気づかずに暮らして道を変えたとしても、きっとそれはただの不満の一本道で変化は起き無いと思う。
今の呼吸はどんな呼吸だろう。